姿なき声

26/36

155人が本棚に入れています
本棚に追加
/421ページ
ごろりと一度転がって動きを止めた石を、 リリアは見るともなく見やり、 よろけながら二・三歩歩いて背中を外壁に預けた。 そのまま、 崩れ落ちるように濡れた草の上にぺたりと座って、 力の入らない両手をだらりと脇に垂らした。 顎を上げて虚空を見つめる瞳 は 何を映しているのだろう。 アラベルを助けなければいけないと 思っていたのだ。   アラベルが身を守るため妖獣と争っているのだと 思っていたのだ。 けれど、そうではなかった。   リリアが見たのは、 肉塊を奪い合う二頭の妖獣の姿だった。 「……かあさま……とうさま……」 (ごめんなさい。リリアはもう無理です。 もうこれ以上……頑張れない) 吸い込む夜気の冷たさに 肺が悲鳴をあげている。 動かずにじっとしていると、 痩せこけた小さな身体など、 あっという間に凍えて衰弱する。 リリアは静かにそっと瞼を閉じた。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加