姿なき声

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『だめだめ。だーめ! 眠っちゃだめよ!』 しかし、 心身ともに憔悴してしまった今のリリアに、 驚く心の余裕は残されていない。 無反応で横たわるリリアに 声の主がしつこく語りかけてくる。 『ここに居ちゃだめ。逃げて』 「……もう、身体が動かないの」 眼を開けるのも億劫で、 重い瞼を閉じたまま言ったけれど、 『だめだってば! ねぇほら、立って。逃げなきゃ』   声はまるで身体をそうするかのように、 リリアの脳を揺さぶり起こす。 「どこに? 逃げる場所なんて知らない」 『大丈夫よ。とにかく逃げてごらんなさいよ』 「無駄よ…… 一晩中、妖属と鬼ごっこしていられるほど、 あたしは楽天的じゃないわ」 『だいじょうぶ必ず逃げきれるわよ。 何とかなるわ。 世の中ってわりとそんなものよ』 うっすらと眼を開いたリリアは、 濡れそぼった地面に両手をついて身体を起こした。
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