姿なき声

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「ねぇ。あなたは一体――」 『しぃーっ、黙って』 「何? どうしたの?」 『静かにして。動かずに息を殺しててね』 穴の中を動き回る音が聞こえて、 リリアは身を竦ませた。 もちろん奴らはずっと中に居たのだろうが、 この不思議な声との会話に気を取られていて、 迂闊にもそのことを失念していたのだ。 「やだっ……」 『大丈夫。信じて? いいって言うまで声は出さないでね』 何があっても声を出さないように 両手で口を押さえて、 リリアが誰もいない宙に向って 何度も頷いていると、 醜い唸り声を上げながら妖獣が一頭 小屋から跳び出してきた。 身の丈は大柄の男性くらいだが、 胸板は二・三倍もありそうなほど厚く、 リリアの胴回りより太い 毛むくじゃらの腕を振り上げて、 小屋の中のもう一頭を威嚇しているようだ。 リリア息を飲んで 漏れそうになった悲鳴を両手で押さえ込んだ。
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