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身じろぎも出来ない状況が
これほど苦痛だとは初めて知った。
(これだったら、
大声を張り上げて逃げるほうが
よっぽど楽だわ……)
逃げることを諦めていた割に、
心の中で文句を連ねながら息を潜める。
興奮気味だった妖獣は、
ふと何かを感じた様子で腕を下ろし、
探るように辺りをきょろきょろと見回し始めた。
『大丈夫。見つからないから』
頭の中で声が囁きかける。
けれど、
見つからないなど気休めでしかない。
リリアは物陰に身を潜めているわけではないのだ。
こちらから妖獣の姿が丸見えなのと同じく、
小屋の脇に座っているだけのリリアの姿は、
妖獣にもしっかりと見えているだろう。
『信じて。視えない。
あなたの姿は視えない』
まるで
何かのまじないのように声が繰り返す。
いつの間にかリリアも心の中で、
自分の姿は見えないのだと
何度も繰り返していた。
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