姿なき声

31/36

155人が本棚に入れています
本棚に追加
/421ページ
しかし呆気なく。 小屋からの明かりに照らされた 知性の欠片も見受けられない醜悪な小さな瞳と、 見つめ合うことになってしまった。 リリアは息を飲み、 吐息までも押し殺した。 どれ位視線を交わしていただろうか? ふいと視線を逸らした妖獣は、 興味を無くしたかのようにあっさりと背を向けて、 茂みの奥へと分け入り、 そのまま暗闇の向こうへと 姿を消して行ったのだった。 『ふぅ……もういいわよ』 その合図でリリアは詰めていた息を吐き出した。 『中にもう一頭居るから大きな声は出さないでね』 「あたし、眼が合ったのに気付かれなかった」   独語するリリアの呟きに、 声の主が少しだけ笑った気がした。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加