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次第に声が不鮮明になっていく、
最初に聞いた時と同じ雑音が邪魔をする感覚だ。
リリアは唇を噛んで足を止めた。
「……嘘ばっかり」
再び会える確証など何もないのに。
「嘘ばっかり!」
声は暗闇をわずかばかり震わせて、
木立の奥に溶け込むように静かに消えていった。
涙が頬を伝い落ちる。
どうしてこのような目に
遭わなければならなかったのだろう――
少なくともヴァンは森に精通していたはずだし、
妖獣は火を恐れるのではなかったか。
不思議な声の正体も身体を襲った異変も――
分からないことばかりで、
頬を伝う生暖かな涙の理由さえ。
よく分からない。
リリアはきゅっと唇を噛んで、
手の甲で涙を拭った。
考えても分からないことを、
考えても仕方がない。
リリアは前を見据えて、
再び足を進めたのだった。
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