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「随分と霧が深くなってきたわね……」
どちらへ進めば良いか
検討もつかなかったリリアは、
とにかく血生臭い場所から離れたい一心で
のろのろと足を進めていた。
せめて、
夜空を見渡せる場所であったなら、
星の位置で方角くらいは把握できるのだろうが、
木々の間から
霞んだ空が見え隠れするだけの森の中では
星座を確認することもできず。
そしていよいよ霧は眼の前の視界さえ遮っていく。
リリアが足を止めて辺りを見渡す間にも
どんどん濃度を増していき、
あっという間に何も見えなくなっていった。
辺りは不自然なほど静かで、
音さえも、
この白い闇に閉ざされてしまったようだ。
ともすれば、
左右ばかりか上下さえ
見失ってしまいそうな程の無の世界。
けれど不思議と怖くはなかった。
森の中でずっと感じていた、
足下から這い上がってくるような恐怖を
ここでは感じない。
今のリリアにはそれだけが
せめてもの救いだった。
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