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涙ながらに見送ってくれた家族の為にも、
自分はこんな所で挫けてはいられない。
何としてもキルビカへ行って働かなければ、
故郷の家族を路頭に迷わせることに
なってしまうのだ。
「朝まで身体を休める所を探しているのだけど……
霧が濃すぎて何にも見えないのよ」
樹木に抱きついて独り言を呟くリリアは、
傍目には頭の弱い少女と映るだろう。
けれど、誰に見られる訳でもない。
むしろ、
そんな自分を笑う【誰か】がいてくれることこそが、
リリアの一番の望みなのかもしれなかった。
「せめてもう少しだけでも
霧が晴れてくれたらいいのだけれど……」
瞳を閉じて大樹に話しかけていたリリアは、
閉じた瞼の向こう側が
不意に明るくなったように思えた。
(あら? どういうことかしら?)
すぐにでも目を開けて確認したい。
けれど、
たとえ霧が晴れたとして、
深い森の中で光が射すなど
あり得ない話ではないか。
となれば、今、
目の前でいったい
何がおこっているというのだろうか。
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