森の中の館

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(まぁこれは……) 前方の視界が開けていて、 驚くことに、 ここが森の中だということを忘れてしまうほど 立派な屋敷が姿を現したのだった。 滑らかな白亜の外壁は 窓から漏れ出る明かりに艶を放ち、 窓枠には細部に至るまで 繊細な意匠が施されている。 二階には立派な露台まであり、 まるで物語に出てくるお城のようだわと、 リリアはしばらく呆然とその屋敷を見つめた。   夜目にも分かる荘厳な佇まいは、 闇に照らし出されて 息苦しいほどの威厳を放っている。   通常の精神状態であれば気後れして 逃げ出したくもなっただろうが、 今宵は話が別だ。   車寄せで煌々と焚かれているかがり火に 心の底から安堵し、 リリアは躊躇いもなく玄関先へ向った。 重厚な木製の扉に向かい、 ごくごく控えめに声を掛けた。 「あのー…… どなたかいらっしゃいますかぁー」   これだけの屋敷だ。 もちろん、 こんな声では住人には届かないと、 心中ではリリアもそう思っていた。
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