155人が本棚に入れています
本棚に追加
つまり、
心の準備運動のつもりだったのだけれど――
しかし、リリアが呼吸を整える間もなく、
重たげな扉は音もなく
内側へと開いていったのだった。
「客人とは珍しい」
室内の暖気とともに中から姿を現した人物は
独語するようにそう言って、
睫を瞬かせながら呆けているリリアを見下ろした。
胸元まで真っ直ぐに流れ落ちる白金の毛髪は、
まるで絹糸のようなそれが
自ら発光しているかの如く艶を放ち。
髪の色にほんの少しだけ碧の雫を落とした瞳は、
霞んだ空に浮かぶ月のように愁いを孕んでいる。
「……女神さま……?」
ぽかんと開け放ったリリアの唇から
思わず漏れた呟きを聞きとめて、
おおよそ人という概念から逸脱した姿形の住人が、
怪訝そうに柳眉を寄せる。
白いシャツに黒いズボンという
一般的な男性の服を身に着けていなければ、
あるいは、
静謐な低い声を耳にしていなかったら、
本物の女神かと見紛う程の美貌に、
ただただ圧倒されていたリリアは、
ややあって我に返り上擦った声を発した。
最初のコメントを投稿しよう!