森の中の館

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男はちらりとリリアに眼をやり、 つまみ上げた護符を掌に載せて、 見惚れるほど長い、 毛髪と同じ輝きを持つ睫を伏せた。 「あのーう。その護符がどうかしました?」   リリアの問いを完全無視して、 男が反対側の指先を護符の上に滑らせると―― 次の瞬間、 それはポッと燃え上がった。 「な……何をするんですか!」   眼を剥いて取り返そうと伸ばした手は、 事も無げに交わされて、 「お願い。返して下さい!  あっ……あぁ……」   懇願も虚しく、 護符は男の掌で瞬きをする間もなく、 微細な塵と化してしまったのだった。 「そんな……」   護符をなくしてしまったら、 この森をどうやって通ればいいのだろう。   リリアは眼前で手を拭っている 作り物のような美貌を睨みつけた。 「ひどいです。 あたしを護ってくれた護符なんですよ」 これから世話になろうという相手を 批難するべきではない。 それは分かっている。 けれど、あまりに酷い仕打ちに 口にせずにはいられなかった。
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