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おそらく最初から疑われていたのだろう。
身に着けているのは薄っぺらなコートに、
継ぎ接ぎだらけの古いドレス。
お下げに結っていた髪もみすぼらしく解け、
頭の天辺からつま先まで泥だらけの濡れねずみだ。
誰が信用するだろうか?
これほど立派な屋敷であれば、
高価な調度品など家中に溢れているだろう。
そんな宝箱のような家の中に、
易々と怪しげな者を招き入れるはずがない。
きっと何を言っても、
信用してはもらえないのだろう――
リリアは、
もはや泥の塊にしか見えない靴の先に
視線を落とした。
「……夜分に……失礼しました」
気を抜いたら込み上げてくるものを、
奥歯を噛み締めて堪えながら頭を下げる。
身も心も凍てつきそうなあの森に、
再び一人きりで放り出されてしまうのだ。
けれどそれよりも今は、
自分が信じるに値しない人間だと
判断れたことの方が辛かった。
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