森の中の館

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たとえどんなに貧乏暮らしをしていても、 人としての道を外れるようなことは 一度だってしていない。 後ろめたいことなど一つもない。   生活は貧しくても皆に好かれる一家だったし、 そもそもソフィエルでは村人同士協力し合うのは あたりまえのことだった。   両親や村の大人たちに、 心の豊かさは抱えきれないほど 教えられたと思っている。   リリアにとって自分が疑われるということは、 大切な両親を非難されるのと同じだ。   少々大きめのコートの袖をきゅっと握り締めて 踵を返そうとした。 その時―― 「……!? 今まで何をしていた?」   唐突に男から詰問を浴びせられ、 リリアはきょとんと顔を上げた。 「は?  ……あの? あの……今何と……?」   しかし、 首を傾げて問い掛けるリリアには眼もくれずに、 男はじっと宙を見据えている。   リリアは顎を上げて、 男が見ている空間に眼を凝らした。
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