森の中の館

22/36
前へ
/421ページ
次へ
灰色がかった銀髪をシニョンに纏めて、 あまりに豊かな胸囲をしているため、 押し上げられたエプロンの下で、 黒いドレスの胸周りがはち切れそうになっている。 風体からしてメイドなのだろう。   足許が見えにくいのか、 アンナはつま先に視線を向けたまま、 手すりをしっかりと握り締めながら、 一歩一歩慎重に足を進めている。 やっとのことで階段を降り、 拳で腰を二・三度叩いた後、 ようやく丸い顔がこちらへ向けられた。 「あらあら。まあまあ。 可愛らしいお嬢様ですこと」   アンナはおっとりと言いながら、 彼女なりの早足で歩み寄ってきた。 「リリア・キャラベルです。 このような夜分に申し訳ありません」 「いいえ。宜しいんですのよ?  お気になさらずに。 さぁさ、どうぞこちらへ」   アンナはそう言って、 まん丸の顔をくしゃくしゃにして微笑んだ。 主と違って随分人の良さそうなアンナの笑顔に、 リリアの身体から余分な力が抜けていく。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加