森の中の館

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案内された脱衣室で、 泥だらけのドレスを脱ぎ捨てて、 湯気でけむった浴室へ足を踏み入れたリリアは、 素っ裸の恥ずかしい格好のまま 金縛りにあったように動きを止めた。 口をぽっかりと開け放って 眼を丸くする視線の先には、 カエル泳ぎが出来るくらい大きな浴槽と、 リリアの実家の居間ほどの広さはある 洗い場があった。   美しく艶を放つ石で造られた浴槽脇の壁には、 獅子を模した顔が据え付けてあり、 獅子の口からは、 ごうごうと音を立てながら湯が吐き出している。 「あら?  リリアさん。どうなさいました?」 「あのう…… このお屋敷には五十人くらいの方が 暮していらっしゃるんですか?」 「いいえ。 ゼルラーデル様お一人ですよ。 あとは下働きの者が数名いるだけですけれど?  それより、さぁさぁ、 お風邪をひいてしまいますわよ。 早く湯に浸かって下さいな」   驚きの表情を 未だ引っ込めていないリリアの背を、 アンナは肉付きの良い掌で ぐいぐいと押していった。
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