陰湿な森

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当然、魔力など持ち合わせていないリリアには、 母が持たせてくれた魔除けの護符だけが頼りだ。 リリアは首から提げている護符を、 コートの上からぎゅっと握りしめた。  (大丈夫……この護符があれば安全だから) しかし、だからと言って 逃げ出すつもりは毛頭ない。 リリアが恐れなければならないのは 妖属などではなく、 逃げ出したことによって生じる違約金の方だ。 実物を見たこともない妖属などより、 契約証に記されていた 莫大な違約金を支払わされることの方が 数万倍も恐ろしい。 貧乏に困り果て泣く泣く娘を手放した親に、 それを支払う当てなどあるわけがない。 そして何より自分自身で決断したことを みすみす反故にするなどありえない話だ。 「大丈夫ですよ。 あたし魔除けの護符を持っていますから。 さぁ皆さん急ぎましょう」 二人の少女に向って笑うリリアを見て、 ヴァンがぞっとしない表情をする。 しかし、脅しの通用しない小娘相手に 口を開く気も失せたのか、 ヴァンは軽く鼻を鳴らして、 見通しの悪い道の先に顔を戻したのだった。
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