森の中の館

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極度の空腹に耐え ようやく食卓につくことが叶ったリリアは、 心からの謝意を述べて、 まずは香ばしい匂いを漂わせているパンに おずおずと手を伸ばした。   手で千切ると きつね色をした焼き色の中から、 真っ白なパンが姿を現す。 「こんなに白いパン初めて食べます」   斜め後方に立っているアンナを振り返って、 リリアは満面の笑みを浮かべた。   村で食べるパンは、 《ふすま》が多く入っていて、 もっと濃い色をしている。   ヴァンから与えられていたのも、 似たようなものだった。 上質の小麦粉を使用して作られた 白くてふかふかのパンなど、 小麦を栽培していてさえ 口に入るものではなかったのだ。 「うぅー」 「あらま。リリアさん。どうしました?」   千切ったパンを口に放り込んだ途端、 リリアはテーブルの上で両手を握り締め、 呻きながら苦悶しだした。
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