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「ん・・・んん・・・ぶふぅっ!!」
キタキツネのスゥプラは目が覚めたとたん、見知らぬ巨大な者に口付けされて息を吹き込まれているのに仰天した。
「ぶはーーーーーっ!!げーーーーっ!!げほっ!!げほっ!げほっ!げほっ!げほっ!げほっ!」
キタキツネのスゥプラは、口から鼻から大量の海水を吐き出した。
「な、何だよ気持ち悪い君は?!」
「き、気持ち悪いってなんなのよ?命の『恩トド』に向かって!!」
キタキツネのスゥプラの目の前には、プンプンと膨れっ面をしているトドの巨体が仁王立ちしていた。
「だって!!お、俺に息吹き込んで膨らませてパンクさせようとしたでしょ?」
「パンク・・・って・・・『マスウピース』したんだよ。
『トド工呼吸』!!
だって今、キツネさんが口から海水吐き出したでしょ?わしがたすけなきゃ、今頃キツネさんは海の中で溺死してたよ?!」
「トド・・・」
キタキツネのスゥプラは、トドの巨体に銃弾の跡や他のトドに噛まれたような歯の跡が無数に傷ついていたのを見て思った。
・・・このトド、只者じゃないな・・・
・・・数々の俺の知らない修羅場を潜り抜けた、トドの猛者だ・・・
「あ、申し遅れた。わしの名は『フィーゴ』だ。
わしを他の仲間達が呼ぶ。不死身の『フィーゴ』だ。
で、キツネさんは?」
「お、俺は向こうの大地で秋に子別れしたばかりの、初心キツネの『スゥプラ』です・・・」
「そっか・・・溶けた流氷から堕ちた『若気の至り』か。
見てみろよ周り。もう春だよ?」
キタキツネのスゥプラは辺りを見渡した。
雪は溶けて、向こうの浜辺のハマナスの花は生い茂っていた。
キタキツネのスゥプラの鼻に、花の蜜のような春の匂いがクンカクンカと入り込んでいった。
「げぇっ!!春じゃねーか!!まだ許嫁を?!」
・・・ということは、俺は白い地面・・・流氷の上をぐっすり時が経つまで寝過ごしたってことか・・・!?
キタキツネのスゥプラは、何で乗っていた流氷が溶けたのか解かり、恥ずかしくて顔を真っ赤にした。
「ドンマイだよキツネさん。来年牝ギツネを見つけようね。
それより、わしと遊ばないかい?」
トドのフィーゴは興奮で鼻の孔をパンパンにして、巨体を地面でドシンドシンとうねらせて聴いた。
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