残酷な真、優しい偽。

3/9
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 自分の残りの命も大事だが、問題は家族だった。私より5歳下の妻と2人の子どもだ。  映画の宣伝で出演したバラエティ番組のレギュラー出演者でアイドルだった妻と出会い、その収録後の打ち上げで共に登録したSNSでの交流で意気投合し、私からのプロポーズで始まった交際は4年間も続いた。そして私が30歳の時に入籍し、現在は5歳の長男と2歳の長女という2児の親となった。  このように私も妻も私生活や仕事面の両面で充実した日々を送っていたが、今年の初めに妻の方で突如として不幸が起こった。去年の末に妻の地元で多数の死者・行方不明者を出す大きな災害が発生し、今年の初めになって妻の両親を含む家族と親しい友人の数名の死亡が相次いで確認されたのだ。  妻のタレント仲間や生き残った地元の友人、そして私の俳優仲間などの助けもあり、妻の両親の葬儀は無事に行なわれた。だが、自分の家族や多くの親友をほぼ同時に失った悲しさと、葬儀の日に集まった多くの報道陣の『報道の自由』を盾にした場の空気を考えていそうで考えていない取材姿勢によって、妻は心身ともに激しく傷ついてしまった。そして、育児休業からの復帰宣言をしたばかりだった妻は、数日前に再びタレント活動の休業を発表して家に引きこもるようになってしまった。  こんな状況の時に、私は余命半年の宣告をされてしまった。『滋養強壮! アイドル星雲の恒星女子!!』というアイドル時代のキャッチフレーズがよく似合う妻であるが、今までに私が出会った人々の中で一番のガラスのハートの持ち主で、結婚前や結婚後関係無く仕事でミスをする度に隠れて泣いている姿を目撃していた。  これ以上妻を悲しませるわけにはいかない為に、私は決めた。余命半年の現実を未だに実感出来ずにいる私だが、これからどうしていくかはこれから考えていくとして、家族にはこの事実を隠し続ける事にした。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!