残酷な真、優しい偽。

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 病院内の喫茶店で烏龍茶を注文し、それをゆっくり飲みながら数十分程過ごしている。  天井にぶら下げられたテレビからのある音声に気付き、目を向けた。ワイドショー番組の芸能ニュースが流れていた。  「……話題は変わりまして、新作映画の話題です。来年の春に公開される渡木シンジ原作・北牧勇助監督のサスペンス超大作『メデイアの虚言』の主演を、若手実力派俳優の銘苅一徳さんが務める事がわかりました……」  銘苅一徳……フリップボードに貼り付けられたスポーツ紙芸能欄に、私の顔が大きく掲載されていた。  テレビの中の芸能担当キャスターが私の事を『若手実力派俳優』と紹介したが、すでに30半ばで簡単には若いと思う事が出来なかった。しかし、数十分前に医者から宣告された末期の胃癌とその転移、そして余命半年という事実によって、父親の歳の約半分に位置する自分はまだまだ若い人間なんだという事を改めて思い知らされた。  毎日家の近所をジョギングし、暴飲暴食を控え、睡眠できる時にはしっかりと睡眠をとる……誰よりもストイックに健康状態に気を付けて毎日の生活を送っているつもりだった。ちょっと前からの体調不良から数回の検査を経て今日の余命宣告というジェットコースターのような日々は、生まれてから現在までに受けてきた様々なネガティブな知らせの数々を全て吹き飛ばす程の衝撃的な事だったが、未だに現実感が沸かなかった。半年後に自分が死ぬからだ。
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