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……とはいっても、どうすればいいんだ……。
見切り発車で病院を出て、私はあても無く大通りを歩いていた。何人もの通行人とすれ違った気はするが、私は周りにいるであろう人々の様子や目線などを一切感じる事が出来ず、この世界には自分以外の人類は存在しないんじゃないかと思う程孤独に浸っていた。赤信号で足を止める事は出来るが……。
交通量の少ない側道に入った時、私しかいないはずの世界で自分を見ている他者の目線を急に感じ取った。真後ろだった。私は立ち止まり、振り向いた。
予想に反して、その正体が真正面に堂々といた。そして急に話しかけてきた。
「銘苅一徳さんですね」
「……え」
「週刊四文編集部の者です」
週刊四文、こんな時に限って、あの週刊四文だった。
「……四文?」
「はい、週刊四文です」
「……四文の……誰?」
キツネ顔の若い男性カメラマンを引き連れた黒縁眼鏡で魚顔した女性である週刊四文の者は、私の質問を聞く気が無いようだった。
「先程まで病院にいましたよね?」
「え?」
「大士館大学医学部附属病院です」
「……それが何か?」
「その病院の消化器内科で有名な武間雄一郎先生とお会いして何か話をされてましたよね?……こちらに写真があるんですが」
差し出されたスマホの画面には、約2時間前の病院内で深刻そうな表情の武間先生が私に挨拶している様子が映し出されていた。いつからかはわからないが、私は尾行されていたのだ。
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