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「チョコってあだ名?」
隣の席から急に声がして驚いた。同期の男性、滝本さんだ。涼やかな目元が素敵な人だけど、以前はとっつきにくい印象だった。こうして仕事以外で話しかけてくれるのは、つい最近になってから。
「うっ、うん。下の名前、智世子だから。小っちゃい時からずっとチョコで。」
「へえ、かわいいね。」
こらっ!騒ぐな私の心臓!顔に熱が集まって来るの感じた。話を逸らさなければ。
「犬っ、飼ってるの?」
滝本さんのデスクの写真を指差して聞いてみた。さっきカレンダーの所に挟んでいるのを見てしまったから、ちょっと、いや、かなり気になっていた。
「いや、しばらく預かってただけ。...コイツもさ、チョコって言うんだ。かわいいでしょ?」
フェッ、フェイントーーー!ニッコリと笑いながらそんな事を言うなんて、滝本さんてこんな人だっただろうか?
かわいいのは名前!かわいいのは犬のチョコ!
そんな事は分かっているけど、心臓は持ち主の許可なく勝手に騒ぎ出すし、顔はさっきよりも熱い。
このまま会話を続けてもう少し突っ込んで聞きたい気持ちはあった。でも聞いても良いのかな?この辺の他人との距離感っていつも悩んでしまう。悩んでいる間に話を続けるタイミングも逃しがちだ。
“誰の犬?誰から預かったの?”質問は私の心の中だけでグルグルと回り続けた。
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