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太田君と大谷君
キラキラした背景を背負い、あなたが好きですと告げる女子高生。
画面に指を滑らせ次のページに進むと、彼女は男に抱きしめられていた。
あははと笑いが漏れた。幸せそうでいいな、という好意的な笑いだ。こういう、少女漫画みたいな恋愛をしてみたい。誰かを好きで、誰かに愛されて。さぞかし楽しい学生生活だろう。
俺には無縁だ。なぜならここは男子校。好きです、なんて告白してくる女子は存在しない。
「お前、好きな子いる?」
スマホに目を落としたまま、訊いた。
友人の大谷は本を読んでいる。休み時間は大抵図書館から借りた本を読んでいて、前の席の俺は、後ろ向きになって、スマホをいじっている。
中一から高二の今まで、同じ学校で同じクラス。太田と大谷だから席も前後だ。仲良くならざるを得ない。
大谷が本を閉じて、「太田」と俺を呼ぶ。
「うん?」
「俺のこと、好きなのか?」
「はあっ?」
裏返った声が出た。目を上げると、大谷は不思議そうだった。不思議なのはこっちのほうだ。急になんてことを言い出すのか。さいわい、誰もこっちを見ていない。胸を撫でおろす。
大谷は俺の顔をじっと見てから舌打ちをして、憎々しげに言った。
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