太田君と大谷君

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 チャイムが鳴った。大谷が本を閉じた。表紙に、「告白」とある。わけもなく、ぎくりとした。  大谷と目が合う。片肘をついて口元を隠し、斜めになって、俺を見上げている。まばたきもせずに、見つめてくる。 「な、なんだよ」 「別に。座ったら」  教室の中で、立っているのは俺だけだった。大人しく、席に着く。  ほどなくして教師が教卓に立ち、授業が始まった。俺は、頭を抱え、悶々としていた。  好きな人がいるか訊くのは告白の下準備。100%の確率で、そうらしい。  あくまでも大谷いわく。一般的にそうだとか、誰でもそう思っているわけじゃない。  でもそのわけのわからない定義を口にした本人が、俺に、こう言ったのだ。  ――お前は好きな奴、いるのか? 「まさか!」  叫んで立ち上がった。 「太田ぁー、また寝ぼけてんな、座れー」  教師がチョークを投げるフリをして、教室が中途半端な笑いに包まれる。  椅子に倒れ込む。後ろの席から大谷の声が、囁いた。 「気づくの遅ぇよ」  俺は再び頭を抱え、うなる。耳が、首の後ろが、熱い。大谷に丸見えだと思うとなおさら体が火照ってきた。  気持ちの整理がつかない。  わかっているのは、もう俺は、合コンどころではなくなったということだ。 〈おわり〉
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