54人が本棚に入れています
本棚に追加
春の陽差しがポカポカと気持ちの良い休日、洋子叔母さんが選んでくれた若草色の訪問着を着てお見合いに挑んだ。若草色の地に薄いピンクを基調とした四季の花が描かれている。帯も淡い金色、帯締めは花の色に合わせてやや濃いピンクを合わせてくれた。
気の進まないお見合いではあったけれど、華やかな着物は少し心を浮き立たせてくれた。
相手は10歳上の49歳、バツイチ子無しと聞いていた。どんなオジサンが来るのかと思いきや、その和室で待っていた男性はオジサンと呼ぶのは失礼と思うほどに格好良かった。若い子なら“イケオジ”とでも言うのだろうか。
思わず見つめてしまっていたのかも知れない。目が合ってしまい、慌てて俯いてそのままお辞儀をした。
「内藤啓介です。今日はご無理を言って申し訳ないです。」
「いえ...」
私の事は叔母が紹介してくれた。ショボイ経歴を無理矢理グレードアップしようとしていておかしかった。
「こちらはね、本宮瞳子さん、今はね自宅でアクセサリーのデザインをしているの。ねっ?」
アクセサリーのデザインと言えば、宝飾品のデザイナーとも聞こえなくもない。ビーズで作ったアクセサリーをネット販売しているだけなのに。
仲人を立てた正式なお見合いではなく、彼のお姉さんと私の叔母とがヨガ友達で、そこからこのお見合い話になったらしい。二人はお互いに、相手の連れてきた人物を、格好良いとか、綺麗だとか散々褒めそやし、「じゃあ、後は...お二人で。」なんて言って退室していった。
“後は”と、“お二人で”の間の妙な間は、お見合いの時の決まり文句を口にしようとして、若くない二人を前にすんでのところで思いとどまったらしい。
最初のコメントを投稿しよう!