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「庭に降りられるみたいですね。少し歩きますか?ずっと正座もキツいでしょう?」
内藤さんの気遣いに有難くそうさせてもらうことにしたけれど、慣れない着物姿に正座で上手く立ち上がれない。内藤さんはすかさず手を貸してくれた。
高い。180センチ位はあるんだろうか?お互いに立つと身長差に驚いた。私だって女子の中で背が低い訳ではないのに。
スラリとした長身、太ってもいなくて痩せてもいない。細身だがしっかりとした体つきなのがスーツの上からも窺える。おまけに渋味の加わった端正な顔立ち。いったいこの人にどうしてお見合いが必要なんだろうか?
「今日はすみません、姉が無理を言ったみたいで。」
「いえっ、こちらこそ叔母が無理をお願いしまして...。」
「何か、似た者同士みたいですね、あの二人は。」
思わず笑いがこぼれた。内藤さんも、ブルドーザー並みの押しに負けたのかもしれない。
「こんな事言うのは何ですが...遠慮なく断ってくれて構いませんから。」
「えっ?」
「こんなに年上のバツイチのオジサンなんて、お嫌でしょう?」
頭をガンと殴られたような衝撃だった。曖昧に笑って返事をしたが、その後は何を話したのかも思い出せない。つまり、私には興味が無いから、適当にそちらから断って欲しい、そう言う事だろう。私の顔を立ててくれているようで、振られた事には変わりない。
急に、目の奥が熱くなり、止めようとしても涙はぽろぽろとこぼれてしまった。
驚く内藤さんを前に、「帯が苦しくて。」と小娘のような言い訳をして、早々に逃げ帰って来た。
恥ずかしい。自分だって渋々了承したお見合いだ、相手もそうだったからと言って責められない。本当ならホッとするべき所だ。だけど、一度舞い上がってから落とされた気持ちは、どこまでも沈んで行きそうだった。
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