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えっと、私、何でこうなったんだったっけ?
はあはあと息切れしながら、重くなった足を無理矢理一歩一歩前に踏み出す。前を歩く内藤さんの足元しか見えない。というかそれ以外を見る余裕がない。
「瞳子さん、もうすぐ頂上です!これが最後の難所ですから、頑張って!」
内藤さんが立ち止まり、振り返って励ましてくれている。
日曜日の今朝、私は内藤さんに言われるがまま、私鉄の駅に降り立った。関西で有名な高級住宅地と同じ名のその駅に、こんな姿で降り立って、浮きはしないかと心配した。内藤さんからの指示書のようなメッセージには、
『スニーカー等歩きやすい靴で。サンダル、ヒール、パンプス、革靴などはNG』
『脚を曲げやすいズボンで。出来ればジーパンは避けて』
『半そでの上から、長袖の上着。帽子、タオルも。日焼け対策は厳重に』
『荷物はリュックに』
『ペットボトルで良いので水分は多めに』
と書かれていた。待ち合わせは朝の8時。指示通りTシャツの上にパーカー、下はカーゴパンツ、スニーカーとリュック、それにキャップ。まるで学生のようなスタイルだ。待ち合わせに現れた内藤さんも、私と似たり寄ったりの服装でホッとした。内藤さんは私の姿を確認すると、
「うん、完璧です。じゃあ行きましょうか。」
と、さっさと歩き出した。舗装された道路はやがて緩やかな坂道となり、高級住宅にさしかかる。長い塀の家ばかりでその敷地の大きさが窺える。目的地はどこだろうか?
「あの、どこへ行くんですか?」
「今日は山に登ります!」
「えっ、そんなっ、無理です。」
「大丈夫ですよ、初心者コースですから。ほら、小さい子もいますよ。」
見ると、小学生位の子どもがいる家族連れが同じようにラフなスタイルで歩いている。こんな街中から山登りがスタートするのかと驚いていたら、程なくして登山口に到着したのだった。
何度も休憩をとってもらい、ようやく後少しの所まで登ってきたらしい。最後の力を振り絞り、少しずつ進んでいく。下ばかり見ていたら、急に周りが開けた気配を感じた。頂上かと思い、喜んで顔を上げた。
「はあ?!何これ?!」
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