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「すみません。つい読み耽ってしまって・・・」
「いいんですよ。ここは来てくださった皆様が落ち着いて過ごせる空間であるべきなのですから、そうやって時間を忘れて過ごしてくれる方がいてくださって嬉しいです。」
落ち着いて返されてしまったルキアは静かに本を棚に戻し、書庫の出入り口へと歩き始めた。幸いなことにここに来た目的の花の管理方法はいつの間にか読んでいた為、明日またここにくることはなさそうだ。
「では、おやすみなさい。良い夢を」
「えぇおやすみなさい」
なかなか充実した日だったと今日を振り返りながら歩いていると、例の隠し通路がある肖像画の前まで戻って来ていた。折角だからと隠し通路を使わずに歩いていたが、段々とどこを歩いているのか分からなくなって来た。魔王城はどこの部屋にも辿り着き難いように入り口から使用人の部屋、廊下から魔王の私室などそれぞれ迷路のようになっている。
「これは遠いですね。皆さんどうしているのでしょうか」
息を切らすことなく歩き続けているが、環境の変化などのせいでいつもより早く疲れ始めたのだろうルキアは、思いついたように魔法を唱えた。
「転移」
一瞬にして自分の部屋の前に移動して来たルキアだが、流石に部屋の中にまでは入れなかったようだ。部屋は外からの転移を防ぐ結界が張ってあると聞いた。その為わざわざ部屋の前に降りたのだ。
結界は一部屋を覆うように掛けられており、転移でそこをすり抜けるのはとても難しい。ましてや魔王城にある部屋だ。殆どの者が通ることはできないだろう。
また転移は一瞬で移動できるのはいいが弱点もある。行きたい場所に自分の魔力を置いて移動するために移動先を知っている必要がある。具体的な場所を知っておくことでより正確な位置へと行くことができるのだ。もしこの時魔王城に敵が攻めて来ても、よほど器用な者がいない限り全ての敵が迷路に入った時点で死に行くだろう。
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