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帰宅した私はコートを投げ出して、ラグに座り込んだ。
「おっと」
コートが巻き起こした風で小さなメモ紙がひらりと床をすべっていくのが見えた。四つん這いになって追いかけて、パシッとかるたでも取るように捕まえる。拾い上げたメモを眺めながら、ひとりごちる。
「ああ、今日は準夜勤か……。きついなあ」
準夜勤は午後4時から夜中12時過ぎまでの勤務だ。
「なつき、勝手なんだから」
彼の部屋で見つけた残りの半分のメモをポケットから出し、破れ目をくっつけて読んでみる。
2月15日 来週のことで
急だけど 準夜勤変わってくれる?
夜中まで 仕事でごめん。
一緒なのは 仲良しのミホだから
嬉しいでしょ? おわびに
甘いものを 差し入れに
あげるよ
夏生より
ポイっと二枚一緒にゴミ箱に捨て、ラグにごろっと仰向けに寝転がった。手を顔の上にかざし、指輪を眺める。
「でも今日は病院に行けば彼に会えるから、ま、いっか」
彼は頭痛と嘔吐、めまい、血圧低下で入院中。救急車で病院に運び込まれたとき、死にそうな程苦しんでいたという。可哀想に……。 とはいえナイショで彼の部屋から取ってきた指輪をはめて病室に顔を出したら、きっと喜んでくれるに違いない。
彼の目の前にパッと手を広げて見せよう。驚く顔が思い浮かび、くすくす笑いがこみ上げてきた。
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