バレンタインデー

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 僕はふみちゃんのために料理を作っている。  ひよこ豆とベビーリーフのサラダにジュレのドレッシングをかけてキラキラに。  じっくりとバターと小麦粉を火にかけながら練ってミルクでのばして作ったホワイトソースにコーンを入れ、()して作ったコーンスープ。  A5級の和牛肉のステーキ。付け合わせの野菜のグラッセ。  腕によりをかけて、最高のディナーを作ろう。とはいえ、デザートのためにお腹に余裕を残しておいてほしいから、量は少な目。  なぜなら今日はバレンタインデー。メインはチョコレートだ。  さてデザートに作るのはフォンダンショコラ。フォークで割ると、中からチョコレートが流れ出すミニケーキだ。一人に一つずつ焼くので、ふみちゃん用のケーキの中に、溶け出すチョコレートガナッシュだけではなくて、指輪も仕込んでおこうと思う。プロポーズ用の婚約指輪だ。  ふみちゃんの「最後の晩餐」に最高の料理とサプライズを!  そう。最後の晩餐。つまり僕はふみちゃんを殺すつもりなのだ。殺すのに指輪? と不思議に思う人もいるかもしれない。殺すならば、指輪をあげるなんて、ムダなお金を使うだけじゃないか? と。  しかしふみちゃんが憎くて殺すわけじゃない。むしろ愛しているからこそ、いつまでも僕のふみちゃんでいて欲しいのだ。他の奴と結ばれる位なら、いっそ殺してしまいたい。僕がプレゼントした指輪をはめて、あの世で待っていて欲しい。それが偽らざる気持ちなのだ。そのためにはふみちゃんが死ぬときには、指輪をはめていてもらわなくてはいけない。  計画は完璧。ケーキの中から、とろけたチョコレートと一緒に指輪が流れ出てきたら、ふみちゃんはかわいい垂れ目をまんまるに見開くだろう。もしかしたら笑い出すかもしれない。  『チョコレートかと思ったら、指輪のプレゼントなのね!』  などと言って喜ぶ顔が目に浮かぶ。  しかし(ゆる)んだ頬が、ふとこわばった。ふみちゃんの部屋で見付けたメモを思い出してしまったのだ。  歯ぎしりしてしまったらしく、ギリギリと歯のこすれる音が頭の奥に響く。「ふみちゃんを殺して、永遠に僕のものにする」その決心が揺るがないようにするために、メモをもう一度見て目に焼き付けよう。
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