第三部:その時を待ちながら厳冬に事件が続く

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木葉刑事は、美田園管理官へ。 「もう一度、いいですか?」 内線を取る美田園管理官は、再度の取り調べを決めた。 そして、夕方だ。 ふてくされた感の男性は、前髪が目にかかり、後ろや脇も長めだ。 中肉中背、顔立ちはややアイドルグルーヴに入れそうな雰囲気も在る。 が、鋭い眼からは狡猾さが滲み、喰えない笑みを浮かべる。 年齢は、30前後だろう。 さて、取り調べ室に入る彼は、全く喋るつもりが無いのか眼を瞑る。 其処へ、木葉刑事が入るなりに。 「やあ、『松潟 輝』(まつがた ひかる)さん。 薬物製造で逮捕って、2回目だね」 その一撃は、先制パンチにしてはヘビーだった。 ギョッと眼を見開く男性は、木葉刑事を睨んで。 「誰の事だ?」 隣の視聴室に居た刑事達は、初めてこの被疑者から変わった態度を見たと驚く。 八重瀬理事官は、美田園管理官に。 「美田園君、松潟って…」 「はい。 以前にも麻薬を製造した罪で捕まったと情報が挙がった、例の捜索中の…」 皆が見ている中で、木葉刑事は資料を眺めながら。 「顔を整形したんだろう? 整形した部分が驚いても大して動かないし、返って眼や額の無修整部分がハッキリしてるよ」 こう指摘した上で。 「君の正体を調べるなんて、意外に簡単だよね。 肌、口腔内、血液、髪の毛。 体の様々な場所からDNAを採取して鑑定すれば、まぁ一発だよね?」 木葉刑事の話に、彼は言葉を詰まらせたかの様に黙った。 これまでの黙りではない、明らかに心が動揺している沈黙に見えた。 「木葉刑事は、何を言ってるんだ?」 視聴室に居た所轄から応援の若い刑事が呟くと。 美田園管理官が、取り調べを眺めながら。 「松潟は、特異体質よ。 奇蹟と云うか、三人の胚細胞が混じるキメラなの。 口の中、肌、毛髪、血液、どのDNAも一致しない」 だが、木葉刑事はにこやかに。 「君も、頭がイイなら知ってるだろう? DNAの型が合わなくても、ミトコンドリアのDNAはお母様由来。 意外と特定する方法は、既存の考え以外に在るんじゃない?」 意味深に言う木葉刑事。 下から睨む男性は、敗北を感じたらしい。 ギリギリと睨む。 睨まれても全く動じてない。 「多分、芥田を殺害したのは・・君だろう?」 また、彼の眼が反射的反応の様に見開かれる。 その彼の脇には、芥田が立っていた。 黙ったままだが、これまでとは違い、恐ろしい形相をしていた。
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