2人が本棚に入れています
本棚に追加
その夜。
特捜の本部となる会議室では、木田一課長が取り調べから挙がる情報を精査していた。
廃工場で捕まえた四人は、麻薬を精製したり管理していた様だ。 様々な薬物が総重量で200キロを超えて、鑑識員が悲鳴を上げる。
一方、薬物取締課が逮捕したのは、違法薬物の原料となる植物を育てていた者達。 家の敷地にビニールハウスを建てて、そこで栽培していたとか。
民家と廃工場を見張り、調べて事実を確認。 一斉に確保を決めた木田一課長は、じっくりと作戦を練った。
朝方に確保を実行したのは、宵闇に紛れて奇襲するにしても、視界が悪くなるのは此方も同じだからだ。 また、監視すると、朝方は不審者の警戒が弛む為。 鎹班長、山田班長が話し合い、木田一課長が決めた。
さて、今の態勢に変わった捜査本部に戻り一番に驚いたのは、美田園管理官だろう。 若手の刑事達の直談判を木田一課長が受け入れたのだから。
“真樹、お前の言った心配は、最もだった。 今回は、全て俺に任せろ。 バカの尻拭いは、しなくていい”
木田一課長が、彼女に言った言葉だ。
木田一課長と八重瀬理事官が主導権を持って、人員配置から準備を行う。 木葉刑事を突入から外したのは、彼に無用な責めが及ばない様にする為。
“木葉刑事などは、何故に手柄に近い捜査を優先して回されるのか”
異論を唱えた者は、若手5人を含む全員で7名だ。 聴いていた瓶内鑑識員が、余りの我が儘に呆れ果てた。 何せ、特捜に成る前の捜査本部にて、被害者の周りを調べる捜査に入った応援の刑事達。 木葉刑事より先にこの事実に気付く事は、現実的に考えても出来た筈だ。
異論が出た時の事。 引き下がらない若手に対し、木田一課長は木葉刑事を呼んで。
「木葉、久坂、それと司馬刑事、良く此処まで調べてくれた。 もう後は、誰でも出来る捜査だ。 連日に張り込みや泊まり込みをしただろう。 後は此方に、この捜査を任せろ」
詰めを目の前にし、久坂刑事は唇を噛む。 此処まで調べて、最後は手柄を他に預ける事に司馬刑事も困惑した。
が、木葉刑事は。
「一課長」
「不満か、木葉」
「いえ。 自分は、どうでも」
「そうか」
「ですが、久坂さんの事は、高橋班長の意見を聴くべきと思います。 また、司馬刑事は廃工場の張り込み、薬物の原料を栽培する民家の位置を全て把握しています。 その事は、考慮して配置して下さい」
最初のコメントを投稿しよう!