第三部:その時を待ちながら厳冬に事件が続く

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そして、その行動に対するリスクは、非常に重たい。 廃工場の不審者4名を確保したのは、里谷刑事と市村刑事と飯田刑事なのに、手錠を掛けて連行したのは所轄の異論を言った刑事達。 木葉刑事を外した事に対し、篠田班の静かなる抗議であったし。 周りの捜査員が居る面前で、態と逮捕から手錠を掛けて連行する手柄を与えられた。 “刑事として、功績と云う現実的な価値の無い手柄を与えられる。 これからも、この事実は一生に亘り付いて回る” 周りの色醒めた視線の中で、それを味わいながら逮捕して連行するのだ。 在る意味、恥辱にまみれた手柄で在る。 さて、一斉確保後。 昼から各取り調べを見てきた美田園管理官。 夜の10時を回って、確保した被疑者達の取り調べ状況を確認すると。 「一課長」 「どうした、真樹」 情報に目を落としたままに、応える木田一課長。 美田園管理官の顔は、どうも渋い。 「確保を所轄の刑事に任せても、取り調べの全てを任せて大丈夫でしょうか。 篠田班の皆は、取り調べも…」 進言する美田園管理官の喋りを遮り。 「いいっ! 現実が解らないならば、身を以て解らせるだけだ。 この件について、篠田班も、君も責任を感じる必要は無い」 黙る美田園管理官。 異例のこの珍事は、警視庁でも噂に成っていた。 美田園管理官の同僚で、他の課や部の職員からも話を聴かれる始末。 総務や人事課は、こんな事態を引き起こす因子を嫌う訳で。 木田一課長を怒らせた職員の事を知りたがる。 また、捜査本部を影で支える庶務課の職員より、情報がただ漏れした。 “所轄の若手が、直談判して手柄泥棒をした” 他の警察署では、署長や部長職が若手を引き締める。 “こんな恥さらしをするな” と、言いたげに。 今日も特捜本部の会議室に残って居る高橋班の面々だが。 木田一課長が本気で怒っている、と久坂刑事でも解った。 (おいおい、このままで大丈夫かよ…) 本日は、もう篠田班が誰一人も会議室に居ない。 木田一課長が定時で帰すとしたし、篠田班長も含む誰もが残らずにサッサと帰った。 その醒めた態度には、他の関係ない刑事達も口を挟んだり、誉め言葉すら言えない。 また、この日に偶々出てきた尚形係長は、信じられない事態が把握しきれずに困った。 取り繕おうにも、木田一課長が全く話に応じない。 木田一課長は、巻き込みたくないから突っぱねているのだが。 
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