第三部:その時を待ちながら厳冬に事件が続く

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        ★ 1月22日。 朝の7時半を回る頃。 「………」 女性用トイレに在る大きな鏡を前にして、美田園管理官がメイクをしていた。 もう終るらしく、最後に口紅を引く。 厚ぼったい唇は、彼女の最も解りやすいチャームポイントで在る。 其処へ、ドアが開かれて、庶務課の女性職員が入って来た。 「御早う御座います、管理官」 「御早う。 昨日の夜勤は大変だったでしょ?」 「はい。 一課長がピリピリしてて、もう居られませんでしたよ」 「そうね。 でも、今日も変わらないかも」 「あ、でも一課長・・真夜中に帰られましたよ」 此処で、美田園管理官が彼女に向く。 「別の捜査本部で、何か進展でも?」 「いや、ん~。 何だか、首や肩を頻りに触ってましたけど…」 「ふぅ~ん」 此処で、職員の彼女から。 「管理官、このまま事情聴取とか難航するんでしょうか」 「どして?」 「私、6月に結婚なんです。 彼は、私の仕事を理解していますから、下手に長引いて忙しいと、ジューンブライドを逃しますよぉ~」 庶務課でも、主任やら課長から重宝がられている彼女。 下手に長引いて、後に忙しく成られては困るらしい。 「大丈夫・・って言いたいけれどねぇ。 篠田班の彼等を横に置くんじゃ…」 「管理官~、あんな若手の意見なんて、サッカーボールみたく蹴っ飛ばしてクリアしてくださいよぉ」 「まぁ、まだ6月まで時間は在るし」 「でも、昨日は夜勤じゃなかったのに、急きょですよ。 ハァ、この夜勤明けの顔で、式場とか見学はイヤなのにぃ」 個人的な意見だが、捜査本部の士気の低下を感じ取ったが故の泣き付きだ。 美田園管理官も、何だか滅入って来そうで。 (今日も、ダラダラと事情聴取・・かしらね) 木田一課長が帰ったならば、一応は誰かが会議室に居なければ成らないので。 (仕方ない、行こ) トイレを後にする。 確かに、木田一課長が居ない捜査本部。 朝、9時頃に木葉刑事がボンヤリ出勤。 4時間ほど寝て起きた美田園管理官は、木葉刑事の様子が変に見えて。 「木葉刑事、大丈夫?」 「大丈夫ッス。 寝過ぎました~」 「インフルエンザとか、今は止めてよ」 「大丈夫ッス~」 頭がボサボサの木葉刑事に、先に出勤した織田刑事がマスクをしたまま。 「おやまぁ、見事なネグセだこと」 「10時間ぐらい爆睡しまして~」 「はぁ~、随分と寝たねぇ」 コーヒーをお供に、鶏肉そぼろ弁当を開く木葉刑事。
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