傭兵のバレンタインデー

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傭兵のバレンタインデー

毎日のように人が傷つき、死んでいく。 中東の紛争地域。 複数の国家と複数の宗派、複数の民族が入り乱れ、何が正解だったのか、どこで間違ってしまったのか最早誰もわからないほどに事態は混迷していた。 砂埃と弾丸が飛び交う中、私も人を壊し、殺し続けてきた。 傭兵稼業。 生きるための術。 正義のために人を殺すのは果たして正義なのか。 気がつくと銃を向けられているこの地では、そんな疑問すら考えることを許されない。 戦い、喰らい、眠る。 それでも、心穏やかになる時間も少なからずはあった。 「バレンタインデーは女性が男性にチョコをあげるんだって? 日本では」 クルスーム。年齢は下だが、現地の勇敢な兵士だ。 「あなたにあげる分はないわよ」 「あれ、じゃあこの差し入れは? 君からって聞いたけど」 彼の手には簡素なチョコレートの包み紙が握られていた。 「私じゃない」 「そうなのか。まあいい、食べよう」 クルスームがチョコを口に入れ噛み砕いた瞬間、凄まじい轟音とともに爆発が起こった。 舞い上がった塵埃が視界を塞ぐ。 「なんだ!」「どうした!」「何があった!」 怒号が飛び交う。 視界が戻ると、そこには先程までクルスームだったものが倒れていた。 綺麗に頭部が爆ぜている。 「あ、あ……」 声がうまく出ない。いや、それだけではない。 左目が開かない。顔に手をやるが、おかしい。 顔が、左半分の顔がない。 現実を認識したその瞬間、私は事切れた。
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