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「ノイン、次の王は君じゃない、アインスだ」  聞こえるはずのない声に、ノインは持っていたグラスを落とした。ガシャンと、床に落ちたグラスが粉々に散らばる――床の上に赤黒いシミが広がっていく――。  むっくりと起き上がったドライツェンの姿に驚き、ノインはその場にへたり込んでしまった。 「ドライツェン……君は……! どうして、死んだはずだろう? 僕は君のワイングラスの(ふち)に毒を……」 「ノイン、君は実によくやった。見事な暗殺だよ……でも、僕の方が一枚上手だ。君の雇った暗殺者を懐柔したんだ、アインスとエルフには一時的に仮死状態になってもらった。今は各々城の医務室で養生している」 「……どうして僕だと……」 「君がアインスが暗殺(・・)されたと言ったからだ。アインスとエフルの城から情報は流さないように取り計らっていたんだ。民衆が騒ぐと困るだろう? でも君は知っていた。暗殺の依頼をした娘から連絡を受けたからだ。二人が暗殺されたと噂されているのは僕の領地だけだ。君が流した」  ドライツェンの言葉に、ノインは顔色をますます青くした。自分の浅はかさに唇を震わせる。そして、激しい後悔の念に苛まれた。 「それに、君の母上が以前僕を殺そうとしたことがあっただろう? その時の暗殺者の痣と、花売りの痣は同じだった。同じ暗殺集団ってことだ。あの時――君は助けてくれただろう? 僕を庇って、君は生死の狭間をさまよった……」 「ドライツェン、僕は……」 「僕は知っている、君がずっと苦しんできたことを――。君は賢い、そして勇敢だ、でも、ノイン、君は王の器じゃない。母親の亡霊にとらわれた君は、いつか国を滅ぼす。だから、君を王に即位させるわけにはいかないんだ」  ドライツェンの言葉に、ノインははらはらと涙を流し始める。 「すまなかった……君を、殺そうとするなんて……僕は……。僕を、殺すつもりか? 殺されるなら君がいい、ドライツェン」 「僕は、君のことを恨んだりしてないよ、ノイン。感謝しているくらいだ、この事件を、利用できる」 「利用?」  ドライツェンは、子供が悪戯を思いついた時のような顔つきになる。訳が分からないノインは、濡れた瞳のままきょとんとしていた。
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