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と、言うのが、表向きに発表された情報である。
実際のドライツェンはというと、東の森の中を歩いていた――。その横に、大きな足跡と、小さな足跡が一つずつ……。
「ずっと、城の中は窮屈だと思っていたんだ」
「君の大胆さには恐れ入るよ、君を殺そうと画策した僕も、現行犯の彼女も取りこんでしまうんだから……君は確かに王の器だった……」
「いいや、僕は今や一文無しの旅人だ。これから路銀を稼がなけれないけないなぁ、なぁヒース?」
ヒースと呼ばれた娘は、顔をあげて、にっこりと微笑んだ。その白い腕には包帯が巻いてある――痣を取り除く処置をしたようだ。
あの夜、娘はドライツェンにこう報酬を求めた。
「自由を――」
そして、ドライツェンは、娘に受けている任務通り、二人の王子の暗殺を依頼した――仮死状態になる程度の毒を使う約束で……。報酬として、娘を暗殺集団から抜け出せるよう対価を支払った。ドライツェンは財産の全てをそれに宛てた。
「いったいどうやってアインス様とエルフ様に説明したんだか、教えてもらいたいよ。君たちはそんなに仲が良くないだろう?」
呆れた表情のノインに、ドライツェンはにんまりと口の端を持ちあげた。
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