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東の領地――イステン。  一人の娘が、かごいっぱいに色とりどりの花を詰めて、路地で売り歩いている。 「お花はいりませんか」  若い男が通りかかったのを見て、娘は一本の花を差し出した。白い色をした小さなヒースの花だ。娘の白い指が、その細い茎をつまんでいる。フードから覗いた腕に、花の形のような痣が見えた。 「――花か、悪くないな、一本いただこう」 「ありがとうございます」  娘はにっこりと微笑んで、若者に一本のヒースを手渡した。男は花を胸ポケットに差し込んで行く。娘の顔を覗こうと少し屈んでみたが、フードに隠れた顔からは、髪の毛一本見えなかった。仕方なく男はじゃあなと手を振る。娘はその姿を見送り、再び花を売り歩き始めた。
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