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「みんなは僕のことを買いかぶっているんだ」
「君は賢い」
「教師どもに面倒な文句を言われたくないだけだ」
「君は武芸にも秀でている」
「狩りが好きなだけだ」
「君は……」
「もういいよ、ノイン。僕は大人しく用事に戻るよ」
そう、城の方にドライツェンが向かったところで、ノインがふと一本のヒースに目を止めた。ドライツェンが街の娘から買った白いヒースだ。
「ドライツェン、それ、どうしたんだい?」
「あぁ、花売りの娘から買った」
「ちょっと、見せてくれ……」
ノインはその花をドライツェンの胸ポケットから取り出すと、苦い顔をした。
「ドライツェン、本当に花売りの娘から買ったのかい?」
「僕が摘んだとでも? そんなにロマンチックな男じゃない」
「見てごらん」
そう言うと、ノインはヒースの花を躊躇いもなく庭にある池の中に放り込んだ。
次の瞬間、池で泳いでいた金魚たちが腹を見せて浮かび始める――。
「これは……」
「君を、殺そうとしている奴がいるんだ。不用意に街に行くな」
その言葉に、ドライツェンは否定の言葉を口にしようとして、止めた。ノインとここで言い合ったところで、事実は何も変わらないのだ。
ただ――街には忍んで遊びに行っていたというのに、自分の姿がばれているとでもいうのだろうか……。あの花売りの娘……ドライツェンはその顔を思い出す――だが、白いフードから覗いた白い腕――そこにある花柄のような痣――それ以外はなにも思い出せなかった。
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