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彼の名は、広瀬……なんだっただろう。今となっては忘れてしまった。
覚えていることは、イケメンで、そう……あゆみと同じ会社で働く2つ年上の同期だった。学生時代からクラウドファンディングで資金を集めて世界中を旅し、貧しい村に学校を作るボランティア活動をしていた。日に焼けた健康的な肌、太陽顔負けの豪快な行動力に、眩しすぎる笑顔の、日本社会においては規格外男子である。女子校育ちのあゆみには、理解できない生物だった。
そして、それは彼にとって、あゆみもそうで、逆に興味深い対象になった。電車や社内のコンビニ、同期会で一緒になるたび、彼女に声を掛けた。そして、話を重ねる中で、彼女の指針が母親にあることを知る。彼にとっては不遇な娘を助け出す王子様のような正義感、いや、本音はちょっとしたイタズラ心だったかもしれない。あゆみの指針、母親の牙城を崩そうと、こう呟いた。「……かわいそうに」
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