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朝露の汽車
失って初めて気づく人生である。あの時もあの時も、そしてあの時も。夜が屋根の隙間から見える。
一人、電車のホームで立っているのが分かる。自然と黄色い線の間に拘泥している。
ほとんど人影がないのに。―馬鹿らしくて少し笑う。もっと自由でいいはずなのに。自分から不自由(楽)へ固執する。
『朝露のような汽車に乗って』、どっかで聞いたことのある詩が脳裏に文字を通す。そうして電車がやって来た。西からやって来た。
―胴長のそれは金切り声を発しながら、芋虫のような体の部位々々を自分では制御できない感じで、だくんだくんとやって来た。―そうして僕の前で止まった。
夜気を受けて冷たくなった扉が開く。中は薄暗く空いている。
やはりこの時間に上りに乗ってる人は数えるほどしかいなかった。リュックにダッフルコート、そんな鎧をシートの通路側に置く。そして窓に肘をつきもたれ掛かる。
女性のアナウンスが機械音のように流れ、噴出音に付いてゆくように扉が閉まった。電車が線路を滑り出した。
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