朝露の汽車

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  もう一度言う。―失って初めて気づく人生である。ビルや家々が嘲笑した。それを無視してスマホのメモを開く。 「僕は結局、失うことにまだ気づかないのである。本当の意味で。昔、小説はどちらかといえば低俗なものとされていたらしい。小説でもないこの文章はよっぽど卑劣なものなのだろう。 格好を付けたくてこんな風に書いているのではない。格好をつけるなら、もっと美しいものを書く。 窓に映る自分の身体を見て絶望する。なんて卑しい身体なのだろうか。そのくせ垢抜けていない。 絶望が襲いかかる。もっとだ、もっと絶望をくれ。そうでもしないと自分は堕落してしまう。 放蕩(ほうとう)生活を送りそうだ。だから、もっと絶望が欲しい。最近いつもあの人のピ アノを聴く。絶望するためだ。 圧倒的才能、圧倒的努力の前に、(ひざまず)き、下から拝むことで僕は絶望を覚える。絶望だ。自分の弱さをピアノの音色を通して知る。 嗚呼(ああ)、まだまだだ。まだこんな(つたな)い文章しか書けない。赤子が言葉を発するぐらいの拙さ。 自分に才があるかは分からない。分かるはずもない。だってこんな性格なのだから。 だれかに見て貰って、どうこう 批評されるほど人間ができていない。結局僕は弱いのだ。」 外を見ると、信号機まで笑っていた。月のウサギは横目ですら見ていない。唯々杵で餅をついている。あの光は屹度(きっと)こっちに向けられたものではない。
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