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現実とは
ほどなく帰宅し、言いようのない虚しい気持ちのまま玄関のドアを開けると、すでにリビングの灯りはない。嫁と娘はもう寝室で眠りについているようだ。
呆然とした気持ちのまま電気を点けると、テーブルには無造作に晩ごはんが置かれていた。
冷めた食事がより一層虚しくさせるが、同時にありがたいと思わないといけない。
関係は冷めておりすでに好きという気持ちの無くなった嫁と、逆に愛しくてたまらない可愛い盛りの娘がいる。
これは幸せと言うのだろうか…。
きっと幸せなのであろう。
食事のあと風呂に入って今日の琴美とのやりとりを思い返したが、なんだかこの頃には清々しい気持ちにすらなっている。
こんなオジサンだけど、なんだか甘酸っぱい青春のようなものを味わせてもらったよ、ありがとう。
若い頃に愛した女を思い浮かべ、幸せだった思い出を振り返るような、そんな気持ちだ。
世の女性にはこの感覚は伝わりにくいかもしれない。
よく恋愛の相手に関して「女は上書き」で「男は追記」だと表現されることがある。
男は惚れた女を忘れることなんてできない。
琴美との、この恋愛というには短すぎる恋心だって、きっと生涯忘れることはないだろう。
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