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映画デート
それから間もなく、琴美は俺にとある恋愛映画が観たいという話をしてきた。
それは俺に「一緒に見ない?」と誘ってきているように思えた。
俺はロマンチストでありながら極端な現実主義者で、リアリティのない邦画など本当は全く興味がない。
だた答えたのは「いいねぇ、それ俺も観たかった。一緒に見ようよ」という誘い文句。
琴美は「えーっ!?」と戸惑ったような反応を見せ、これはさすがにないのかと考えその夜のLINEでは「イヤなら俺は一人で観に行くから」と、あえてうそぶいたが、琴美の答えは「一緒に観ましょうよ♪」との返信。
なんなんだ、これは!
しかも映画のジャンルは感動系の恋愛映画である。
「俺でいいの!?」
「なんで!?」
意味もわからないまま、俺は浮かれに浮かれ、「やったぁー、よっしゃあー!」と声に出して喜んだ。
こんな気持ちは何年ぶりだろう。嫁と結婚してからはそんな気持ちはすぐに無くなっていた。交際期間が短く、そもそも感性が合わなかったのだ。出掛けても楽しくもない、ケンカばかり。
だからこの久しぶりのウキウキとトキメキで高揚してどうしようもない。
こんな奇跡ってあるのか!?
平凡なオヤジに舞い降りた天使との二人きりのデート。
服を何度も着替えて、若作りしすぎず、でも落ち着きすぎてジジくさくならないよう気をつけながら時間をかけて服を合わせた。いつも動きやすく実用性だけを考えて着る服をチョイスしていただけに、こんなことも本当に久しぶりのことだな…。
琴美とは自宅近くの道の駅で待ち合わせるという危険を冒してまで、移動中の車内でゆっくり話ができるようにした。
助手席に座る琴美は今日も美しい。
いつまでも見つめていられる整った顔だ。
早めに映画館に着き、近くのレストランで食事をとることにしたが、そこでも話が弾み気が付けばもう上映時間を過ぎていた。
映画は最初の予告編が長いのでまだ余裕があると思っていたが、館内に入るともう本編が始まってしまっていた。
「もぉー」と俺を睨む表情すらかわいい。
ごめんね、琴美♪
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