あま~い、ショコラを召し上がれ

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 大体伊万里は生意気なんだよ、僕の方が年上なんだから、もっと敬えって言ったら、「なるほど、年寄りだから今度から敬いますね、おじいちゃん」なんて腹が立つこと言うし。  思い出して、混ぜる手に力がこもる。柔らかいチョコは、すぐにトロトロになった。  慎重に温度を計ると、氷水の入ったボウルに移す。  別にさ、彼が忘れてたっていいんだ。二月十四日なんて、チョコ業界じゃ元々忙しい日だし、無理かもって思ってたし。でもさ、チョコを渡すのって、やっぱり当日だろ。遅くなってもいいから、渡すだけでもしたかったんだよ。  男が男にって、終わってる気がするけど、海外なら男からってものあるって聞くし、伊万里は一昨年までフランスにいたらしいし、もらうのは慣れてる、と、思うし。  うん、絶対慣れてるよね。僕のチョコも、喜んでくれるとは思うけど、その他のプレゼントに仲間入りするに違いないよね。  あ、また腹が立ってきた。  今日は無理かなって聞いた僕に、伊万里は絶対大丈夫、和泉のためなら光速で帰ってくるよ! って太鼓判押してくれたから、お給料前だからちょっと痛いけど、素敵なレストランだって探してたんだよね。  そしたら先週、予定について改めて打診したら、 「あ、その日は終わったら、職場のみんなで打ち上げに行くんだ」  なんて、底抜けに明るい笑顔で言ってくれたってわけ。ねぇ、このお陽さまのような笑顔に向かって、朝ごはんの食べかけの目玉焼き、ぶつけなかった僕を褒めて欲しいよ。食べ物は粗末にしちゃいけないしね。今度からフォークにしておくことにする。  打ち上げはいい。バレンタインのショコラのお店なんて、みんな大変なんだろうし、苦労をねぎらいあおうとするのも、いいと思う。ただねぇ。  色々気を回したこの僕の努力はどうしてくれるんだよ、バカ伊万里!  あ、いけない、ボウルが手からすっぽ抜けた。慌てて受け止めたけど、中のチョコが顔にかかる。あちっ!  そろそろ火傷するほどの温度ではなさそうだけど、まだちょっと熱いや。頬についたチョコを拭って舐めるととろり、ほろ苦い甘い味。まるで今の僕の気分みたいだ。  こんなことなら、僕も好きだなんて言うんじゃなかった。あいつ絶対僕が優しいからって甘えてるよね。でもさ、僕だってさ、たまには怒ることもあるんだからな。  約束忘れるとか最低だ。
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