日常を踏み外す

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 マスクを付け重装備を背負い、廃屋へ。重いがこのくらいでも足りないと思った。だってあいつは『別の姿が召喚されている』と言った。  あの存在と同等のものが、ここに潜んでいる可能性がある。――待てよ、『召喚』?  それを当たり前のように聞き流していた自分の思考回路に固まる。  確かに、あれは人智を越えていて、この世ならざるものと言っていいだろう。  でもだからって、召喚だなんていうのは、あまりにもオカルトチックだ。それをどうしてこんな素直に受け入れた?これは一般の思考回路ではないのではないか。もっと考えなければ。『召喚されている』。受動だ。それを成した誰かがいる。その予測にさらに動揺しかけるが、いや、しかしと持ち直す。それを踏まえるとして、ここにある黒い箱というものに、召喚の際に必要な重要な何かが入っているかもしれないというのが大切な部分だ。  それは、もしかしたら送り返すのにも必要なのではないだろうか。だったら、なんとしても手に入れて、すでに召喚されているものを送り返さなければ。  草を踏み廃屋の玄関へ。  有名な廃屋というのは本当らしかった。草に踏みあとが残っていて、玄関にたどり着くのは楽だった。木製の玄関ドアは重厚なもので、そこまでひどく傷んでいる様子もない。廃屋になってから年数はそれほど経っていないのだろう。ドアノブをつかんで開けた。 暗い。緑色のつるりとした壁紙が不気味に見えるのはきっと心霊スポットという前情報があるからだと自分に言い聞かせる。  玄関に足を踏み入れると、一間のあとにキッチンに繋がっていた。
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