1章 -無色のdaCapo-

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1章 -無色のdaCapo-

ひらひら、しっとりと、あの空からいろんな何かが落ちてくる。それからこの土地に積もる。一歩駆け出したのは雪の上。 「くらえ、プロナンシエーション!!」 技の名前のようなものを言って勢いよく放つ。飛んできたのは冷たくて硬い球、加減を知らずグイグイと押し固められていた。そりゃ痛いはずだ。 「いって!…おら、お返しだ!」 「はぅ、やったなぁー」 まだそれがどんな意味の英単語なのかも知らない昔。毎日疲れるし、毎日寒いし。だけど駆けた。その日が宵を迎えるまで。長い一瞬の時間、どうしてか楽しいと時間は早い、どうしてか、つまらないと時間は遅い。 「ただいま」 すたすたと床を突く音、玄関に響き渡るその大きな声。 「おい、雪ついてるぞ」 おれは手で払ってやった。 「えへへ」 触られた方の目を(つむ)り、笑ってくれた。まだ幼い、小さな喜びの中に、それは小さな思い出で。 ……。 この村に帰ってきたら何かが変わる気がした。 冬色の風が吹き始めた頃、ここは自然に包まれた小さな田舎。高校2年の11月、おれはこの故郷に帰ってきた。理由は父の転勤で、この村を降りた所が職場だそうだ。それに祖母の家は住むには広く、経済面でも一緒に暮らすことを選んだ。 母はいない、子供のときに病で倒れた。その時のことは今でも覚えている。辺りが一面雪に覆われ、景色が霞むほど白いモヤがかかる寂しい日だった。以来雪を見る(たび)に寂しくなった。白が無を連想させるようになった。そんな今日も雪の日のようだが、まるで自分が拒まれているみたいだった。
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