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「くそっ!また負けた」
喧騒の中に喜怒哀楽、様々な感情が入り交じる夕暮れ間近の競馬場。そこに、ある1人の男がいた。
まだ40代にもかかわらずシワやシミのある顔、だらしなく伸びた髪と髭、ボロボロのTシャツ、何度も洗ったせいで草臥れたジーパン、穴の空いたスニーカーという、帰る家があるのかどうか分からないような外見の男だ。
「あの騎手!何度信じてやったと思ってんだ!いい加減にしやがれ!」
男は手に持っていた馬券を地面に叩きつけながらそう叫んだ。そして周りから不快感のこもった視線を浴びてることなど全く気にもせず、踵を返す。
「だいたい今日は家でずっと寝てるはずだったんだ!それなのに気づいたらこんなところに。くそっ!」
あまりにも独り言が酷いもんだから、道行く人がみんなして振り向いていた。だが男はひたすら前を見据えたまま歩みを止めることはない。
場内を出て、パドックを横切り、ちょうど出口付近にで差し掛かったところ。そこで事は起こった。
「なんだ!?」
急に今まで経験したことのないような目眩に襲われて男は2、3歩下がった後、地面に膝をついた。さっきまで周りからは不審者扱いされていたもんだから当然の如く近づいてくる人はいない。
「こんにちは」
と思われたが1人だけ存在した。男は顔を上げる。
そこにいたのは上下スーツを着た黒髪の青年。声から察するに20代前半くらいだろうか。だが奇妙な事に、その青年はピエロのお面を被っていた。
「ナニモンだテメェ」
もしかしたら自分の恩人になるかもしれない相手に男がかけたのはこの言葉。ただお面を見るだけでも怪しい人物であることは確かだが。
「ボクですか。そうですね、今はまだ18号と名乗っておきましょうか」
「おい、ふざけてんじゃねぇぞ」
「ふざけてません。現状ボクの名前はそうなのですから」
「はぁ!?」
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