第1章 香澄

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 カチ、カチ、カチ  丁度あと2分で1限目が始まる。今日は高校2年生になって初めての日だ。そう、クラス替えの日だ。僕は友達が少ないのでクラス替えがビッグイベントになることはない。だがクラス替えと言えば、新しいクラスメイトと先生たちに自分の’ややこしい’名前を覚えてもらわなければならない。  少し不安がよぎったがすぐにチャイムが鳴り、先生が入ってきた。 「みんな席について」  先生は適当に自己紹介をすると、クラス全員の名簿を読み始めた。読み方の確認と、稀に’性別’の確認がある。 「浅井里奈さん」 「はい」 「安藤翔平くん」 「はい」 「一条香澄、さん」 ああ、出た。 「すみません、一条香澄です。男です」 「おお、すまんな。男の子だったね」 「すごい……名前……だな」  左前の席の男子生徒がその横の生徒とこそこそ話している。いつものことだ。こっちを向いた。彼はなぜか驚いたような顔をして前を向きなおした。  僕の名前は少し変わっていて、一条、という苗字が芸名のようなホストの源氏名のような、とにかく現実感がないものに聞こえるらしい。だがこれは紛れもない本名だ。そして男に香澄という名前。これは生まれてからずっと訂正人生。男に女の名前を付けるのはどうかと思うが、これは画家の父が命名した。さわやかな香りをまとった魅力的で美しい男の子になるように、と。僕は芸術家の感性を分かりはしないけれど、16年目の今、やっと気に入り始めた。自分に一番似合った名前だと思うからだ。クラス全体の名前の確認や学校生活のなんやかんやで1限目はすぐに終わった。  部活に入っていない僕は友達を見つけるのに苦労した。冴えない男子が1人でドア横に突っ立っていたので彼に適当に声をかけた。
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