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A「ふーん……あ、そうだ! じゃあ天気も良いし、ちょっとこの辺散歩しない?」
B「え!?」
彼女の思わぬ提案に僕の体は硬直する。
これはデートと言ってしまって良いのだろうか? そんなことを何人かの小さな自分が話し合っている絵面が浮かぶ。
A「都合悪い……?」
B「い、いや大丈夫! 全然暇だから!」
A「本当? じゃあ行こう!」
彼女はそう言うと、ホットドッグを頬張りながら街路樹を進んでいく。
一口食べるごとに彼女は「ん~!」と幸せそうな声を上げる。その度に粉雪のように淡い銀色のポニーテールが揺れ、黝色のリボンがひらひらと棚引いた。何だかその様子が可愛くて彼女の横顔を眺めていると、
A「私の顔に何か付いてる?」
ケチャップでも付いていると思ったのか、彼女は少し恥ずかしそうに指で頬や口元をなぞっていく。
B「え? いや違うよ。毎回美味しそうに食べるなぁって思ってさ」
A「そりゃそうよ、一週間ぶりなんだもん」
余程このホットドッグが好物なのか、彼女はこの一週間をやきもきしながら過ごしていたらしい。
B「あはは、本当に好きなんだね。でも大雪じゃあ粗方溶けるまで屋台は移動出来ないし、しょうがないよ」
A「これ食べないとこの町に来たーって気にならないのよね~」
B「へ? 君、この町の子じゃないの?」
A「うん、毎年この時期に来てるんだ。でもまたすぐに行かなくちゃ」
きっと行商の家の子なのだろう。近々どこか遠くに行ってしまって、来年戻ってくる頃には僕のことも忘れてしまっているかもしれない。
短い恋が終わりを告げたように思えた。
B「そ、そっか……でも良かったね。ようやく食べれたんだし」
A「うん、でも私も悪かったんだ。やり過ぎちゃったから」
B「何を?」
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