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巡る季節とホットドッグ
一週間前に降った大雪はここ数日の陽気で次第に溶け始め、午後の日差しが最後に残った一欠片を洗い流そうとしている。
それでも冷たい風は相変わらず街路樹の隙間をぬって吹き荒れ、僕の体を横から啄んでいた。
建物の間を通っていけば体感温度も幾分マシなのだろうけどそうもいかない。僕はこの一週間、学校帰りに並木道を歩くのが日課になっていたのだ。
そしてその理由は並木道の真ん中で、大声を上げて僕を待ち構えていた。
A「おじさんジャンボホットドッグ、一つね! あーーーーソーセージはそれじゃなくてそっちの一番大きいやつ! おじさんが雪でお店出さなかったから一週間振りのホットドッグなんだから!」
屋台の店主は「まいったなぁ……どれも同じだよ?」とボヤキながら彼女が指差すソーセージをトングで掴み鉄板に乗せる。
彼女と出会ったのは大雪が降る少し前、あの日もこんな風にホットドッグを買っていて、出来上がったそれを満面の笑みで頬張っていた。
あまりにも美味しそうに食べるものだから、僕もそれに釣られて買ってしまったくらいだ。
そして次の日もそのまた次の日も、彼女は夕方になるとここにやってきてホットドッグを食べていた。
そうやっている内に僕もこの屋台の常連になってしまい、彼女とも会話を交わすようになっていた。
A「あれ、君もなんだか久しぶりだね?」
B「あ、ああ……そうだね。久しぶり」
彼女は僕に気付くと、人懐っこい笑顔と共に手を振る。
屋台が休みだった日も彼女を探しにここに来ていたせいか、気恥ずかしくなってしまい顔を上手く見れない。
苦し紛れに苦笑いをして目を背けると彼女は不思議そうに僕に近付いてくる。
A「あれあれ? 今日は買わないの?」
B「へ? あ、うん……今日はお腹空いてないんだ」
何方かと言えばホットドッグより彼女に会うことが目的なのだが、彼女の方は僕を完全にホットドッグ仲間だと認識しているようでそれが何となく悔しい。
かと言って、その感情を上手く伝える方法なんて持ち合わせていないのは言うまでもなかった。
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